映画「トンネル〜闇に鎖(とざ)された男」

ハ・ジョンウ主演で、ペ・ドゥナの顔合わせということで興味が湧いて見に行った。

 自動車ディーラーのイ・ジョンス(ハ・ジョンウ)は、妻子の待つ家へと急いでいた。なぜなら今日は娘の誕生日。しかし、開通したばかりのトンネルに入って間もなく、トンネルが大規模に崩落、瓦礫の中に閉じ込められる。車の中にある食料は娘のためのバースデイケーキと、ガソリンスタンドでもらったペットボトルの水2本。かろうじて携帯は警察につながった。しかし、最初は「落石ですよね」程度にしか認識されず、苛立つ。

 ようやく事態が理解され、キム・テギョン(オ・ダルス)を隊長とする緊急救助隊が結成され、現場に救助に向かう。しかし、それと同時に特ダネを狙うメディア各社、救助の現場に立って存在をアピールしたい政府官僚なども押し寄せて、現場は大混乱。その中で、ただ一人、キム隊長だけは冷静にジョンスを気遣い、絶対に助けると励まし、生存のためのアドバイスを授けた。妻のセヒョン(ペ・ドゥナ)も現場に駆けつけ、救助隊の食事の手伝いを始める。

 崩落の原因は手抜き工事。締めるべきボルトの数が,計画よりも減らされていた。明らかな人災である。事故発生から時間が立ち、携帯の電源も切れて生存確認の手段が失われると、「もう生存の可能性はない」と救助活動の打ち切りが宣告される。実は、現場に近い第二トンネルの工事が急がれていた。事故以来、爆破工事が延期されてきたが、もう待てないというわけだ。この爆破が行われれば、第一トンネルの崩落はもっと進む・・・。

 深いトンネルの暗闇の狭い空間に閉じ込められる。そこから主人公はいかに脱出するかというサバイバルものでもあるが、この映画をひと味違うものにさせているのは、痛烈な政府批判、マスメディア批判が込められているところ。

 人命救助よりも開発を優先させる政府。キム・ヘスク演じる女性長官は、現場に駆けつけるとやたらに関係者と記念撮影をとりたがり、カッコつけだけで無策という無能ぶりを見せつける。

 マスメディアは大挙して現場からの中継を送るが、その内容は「地下に閉じ込められて生存した日数の世界記録は○○日。世界記録まであと何日」というひどいもの。トンネルの入り口から、内部の探査のために当局がドローンをとばすと、それを追ってカメラを搭載した報道各社のドローンがウンカの群れのように一斉に飛び立つ。トンネルに到達する前に互いに衝突して落下するものまである。

 巨大事故をとりまく政府、メディアのありようをここまで批判的に描く、その背景にはやはり「セウォル号沈没」の悲劇が強く影響しているとしか思えない。

 3月の大阪アジアン映画祭で見た「ロボット・ソリ」は、10年前に起きたテグの地下鉄火災事故が一つのモチーフになっているが、それに加えて、やはりセウォル号事件が影を落としていると思えるところがあった。どちらも、避けることのできた人災であり、とりわけ責任者の現場での判断のまずさや責任放棄が大きな問題とされている。

 娯楽映画としての見せ場もたっぷりあり、特に救助隊長のオ・ダルスのまじめくさった演技がすばらしく、韓国らしい家族愛、人間愛を感じさせる展開にもなっている。

 ちょうど連休中に、10年前に秩父両神山で遭難し、19日ぶりに救助された多田純一さんのドキュメンタリーを見ていたこともあり、身動きができず、食べるものもない状態で何日生きられるのかということを多田さんの例と比較しながら考えてしまった。